商業史レポートA「越後屋・三井八郎兵衛高利」


8.越後屋の流通革命A


【即座仕立て】

 越後屋では、顧客の注文にその場で応じる「即座仕立て」を取り入れていた。縫い子たちは分業により、それぞれが部門ごとに反物を縫い上げ、それらを最後に縫い合わせることで、効率よく短時間で反物を仕立て上げていた。


【番傘の貸出し】

 越後屋では、突然の雨の折に、番傘を顧客に貸し出していた。傘には越後屋の名前が大きく書かれ、それぞれに通し番号が記してあった。その傘を差すことで、顧客は越後屋の動く広告となってくれ、また、返却の際に再度買い物をしてくれるかもしれない。たとえ傘を返しに来なくとも、傘を使用していることで、越後屋の宣伝に一役買うこととなるわけである。この傘を差すことが江戸っ子の見栄になり、川柳にも、「呉服屋の繁昌を知る俄雨」「江戸中を越後屋にして虹が吹き」などと詠われている。


【越後屋の引札(ちらし)】

 江戸時代のちらしは、引札と呼ばれていた。駿河町に移転した越後屋は、次のような引札(注:現代語訳)を江戸市中に配った。

『<越後屋引札>
駿河町の越後屋八郎右衛門からお知らせ致します。この度、私どもは一工夫致しまして、呉服物は種類を問わず、すべて格別にお安く売り出させて頂きますので、どうか私どもの店にお出向きになり、お買い上げ頂きたいと存じます。私どもは、どなた様のお宅にも商品を持参しての訪問販売は致しません。また、私どもが正札で販売致します以上は、一銭といえども嘘の値は申し上げません。従いまして、たとえお客様がお値切りになりましても、一切値引きするようなことは致しません。代金は、即金にてお支払い頂きたく存じます。一銭といえども掛売りは致しません。 以上
呉服物現金安売り掛値なし
駿河町二丁目 越後屋八郎右衛門』


前ページへ戻る 次ページへ進む