商業史レポート@ 「商業の発展と豪商の繁栄」


8.産業の発達


【江戸時代の高度経済成長】

 幕藩体制による厳しい統制を受けながらも、江戸時代には、農業、水産業、手工業の生産力が著しく上昇した。特に十七世紀には急速な発展を遂げ、高度経済成長の引き金となった。
 産業の発展は商業の発達を促し、全国的な商品流通網が形成された。ここで大きな役割を果たしたのが、江戸や大坂と全国を結ぶ交通・通信網の整備である。そして、商業、交通の発達とともに、都市も発展していった。


【農業の発達】

 農民は、小規模な家族労働を基礎に耕作に励み、狭い田畑を効率よく使用しなければならなかった。そのため、農業技術の進歩、改良が進んだ。また、各地で農書も編まれ、農業技術や知識の普及を促すこととなった。
 農本主義に立つ幕府や藩は、年貢増収のため、治水や灌漑の向上、新田開発、特産品を奨励する殖産興業政策を進めた。農民もより一層の現金収入を求め、多くの商品作物の栽培に努めた。こうした、経済基盤の中核である農業の発達は、その他の諸産業に好影響を与えることとなった。

◇治水灌漑 … 水車、龍骨車、踏車が普及。玉川用水や箱根用水が完成した。
◇肥料 … 油粕、干鰯などの金肥が使用された。
◇農具 … 備中鍬、千歯扱、千石どおし、唐箕などが用いられた。
◇農書 … 宮崎安貞「農業全書」などが編纂された。


【水産業の発達】

 地引網による上方漁法が、全国に普及していった。また、九十九里浜の鰯(干鰯に使用)、土佐の鰹、紀伊や土佐の鯨、赤穂の製塩など、各地に特産品が生まれた。


【手工業の発達】

 手工業の発達は、特に目覚しかった。綿織物(衣料生産)が著しく盛んとなり、灘・伊丹の清酒、有田・瀬戸の陶磁器、西陣の高機による絹織物など、各地で現代に繋がるような名産が作られるようになった。これらの生産は、初めは自給自足を軸とした農村の家内工業として興ったが、次第に都市の問屋が支配する問屋制家内工業が進み、中にはマニュファクチュアが見られるものもあった。

◇絹織物 … 京都、足利、桐生、伊勢崎など。
◇麻織物 … 奈良の晒、越後の小千谷縮など。
◇綿織物 … 三河・河内の木綿、久留米絣など。
◇陶磁器 … 京都の清水焼、佐賀の有田焼、加賀の九谷焼など。
◇染物 … 京都の友禅染、鹿子絞など。
◇漆器 … 能登の輪島塗、岩代の会津塗、能代・飛騨の春慶塗など。
◇製紙 … 越前の奉書紙、美濃の障子紙など。
◇醸造業 … 伊丹・灘の酒、銚子の醤油など。


【鉱業の発達】

 貨幣鋳造や重要輸出品として、鉱山の開発も進んだ。佐渡相川・伊豆の金山、石見・但馬生野の銀山、陸中釜石の鉄、山陰の砂鉄、伊予別子・下野足尾の銅山など、各地の鉱山で増産に力が入れられた。


前ページへ戻る 次ページへ進む